お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

出産後半戦

「ほら、お母さん。頑張ったね」先生がそう言って、赤茶けた娘の身体を妻の胸の上に乗せた。
「生まれでぎでぐでで、ありがどう」全ての発音が鼻濁音になりながらも、妻が答えた。
それを捉える私の視界は、どこかぼやけていて、どこか眩しく光り輝いていた。とめどなく溢れて止まらない。私たちの目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
そうか、これが命の誕生というものなのかー

 

 

「コンコンコン」
ノックの音で目が覚める。
定期の内診だ。この時は部屋を出なくてはならない。何をしているのだろうか…まぁ出されるということはそういうことなのだろう。

待機部屋の環境は、妊婦はともかく立会人にとって良い環境とは言えない。ベッドにスペースの大半を占拠されているが故に、椅子一つを置けるのみ。そもそも、2人以上の人間が長居するデザインではないのだ。時刻は8時。起きてから6時間が経過し、瞼の重みが増して来る頃合いだ。

「このまま、夕方頃まで耐えられるか?しかし…」

そんな考えを巡らせている間に、内診が終わった。

部屋に戻ると、「今6センチだって!順調!」そう嬉しそうに妻が言った。だいたいここまでで子宮口の開くペースは1時間に1cm程度だ。10cmになると分娩台に乗ることになるらしい。
今しかない、そう思った。その時ー

「あ、今のうちに車で寝てきた方がいいんじゃない?2時間くらいは多分動きもないよ!!」

ーこちらから言うに及ばず、考えはお見通しだったらしい。

ありがた恥ずかしいことに、疲れているはずの妻から休息を言い渡されてしまった。「本番の時に眠そうな状態が1番嫌だからさ!」男前なセリフで退路を断たれてしまってはぐうの音も出ない。しっかり体力を回復しよう。そう思って病院を出ると…見慣れた赤い車が目の前に停まった。

 

母の使っている車は、15年程度乗っている赤いオデッセイだ。どうやら、「待ちきれなくて来ちゃった★ミ」ということらしい。今日生まれるかもわからないし、面会も出来るか分からないのに、なぜ朝の8時からここにいるのか…

まぁ、ある種いつものことなのでそれは置いておく。どうやら食糧も色々買って来てくれたらしい。ちゃんとこちらでと買い込みはしていたので十分すぎる量が既にあったのだけれど…それは、母親からすれば子どもはいつまでも子どもということなのだろう。というか、孫に無限にお菓子を与えるおばあちゃんの心がすでに芽生えているのかもしれない。
しかし、その食糧の中から「シュークリームは私が食べたいから置いといて!」と取り出すあたりはさすが我が母なりというところだろうか。

そんなわけで、母と合流したら体力が回復できる…わけがない。妻の漢気により得たボーナスタイムは、気が付いたら霧散していた。

 

気がつくと時間は10時。病室に戻ると、ジャストタイミング。ちょうど分娩室に移動しようと看護師さん達が荷物をまとめているところだった。というか、危ない。遅れていたらと考えると恐ろしい。

分娩室での妻は、想像に反してリラックスしていた。
というのも、麻酔が効いているので感覚がないのだ。病院に着いてからはこの麻酔を打っているため、昨晩とは打って変わって痛みから解放されている。

正直、この段階では意思の疎通が出来ないものと踏んでいた。痛みに咽び泣き、言葉にならない叫びを上げ、場合によっては罵詈雑言の雨を浴びせられるものだと、事前に聞いていたからだ。
しかし、実際はどうだろう。リクライニング式の分娩台に優雅に…というわけでは流石にないが、落ち着いた面持ちで横たわり、頭上斜め前に設置されたディスプレイから映し出される圧倒的なハワイの大自然を立体音響で聴きながら、新たな命の誕生に向けて2人で談笑しているのだ。

聞いていた話との、覚悟していたものとも落差にちょっとした目眩を感じつつも、「助かった…」と感じている自分がいた。この時、頭の中にあった不安はただ一つ。

「この痛みを伴わない出産で、感動はあるのだろうか?」

 

 

右手側に配置された陣痛ペースメーカーが、徐々に数字を減らしていく。それと同時に、助産師さんがやって来る。

「もう十分に広がって来ましたね。うん、順調順調!じゃあ、これから広げるのをサポートするから、一踏ん張りしようか!」

そう言って、タオルを被せて秘部を妻から見えないようにした上で、大きく股を広げていく。横からは、角度によっては見える。見ようとすれば、見える。でも、見えない。見られない。怖い。それは、怖かった。

何が怖いか?
一つ、血が怖い。血を見た時、倒れる男性が多いという。自分はそれに該当しないか?
一つ、秘部が怖い。今後、性的欲求を感じることが出来るのだろうか?
一つ、自分が怖い。その瞬間は、生命の神秘に打ちひしがられ、感動の坩堝に嵌るかな如くだと聞く。しかし、本当にそれが自分に訪れるのか?非情な人間であることを認める結果にならないか?これから生まれくる命を愛せるのか?

しかし、そんな葛藤は次の瞬間に吹き飛んだ。
いきむ。大きく息を吐き切り、吸う。そして、止める。「ふんっ!」と声を出して、般若の如き形相を浮かべる妻。右手に添えた私の手は、圧倒的握力に握りつぶされる。その瞬間、爆ぜる血、大きく口を開けた穴からは、愛する我が子が頭を覗かせた。

衝撃だった。何かは今も分からない。でも、その瞬間。自分の血を分けた存在が、この世に生まれ出でようとしていることを実感し、それまでの不安や葛藤は彼方へと消し飛んだ。

 

 

それからはあっという間に過ぎていった。
涙と嗚咽でまともな言葉も発せられない中、とにかく「ありがとう」という単語だけを繰り返した。妻に、娘に、先生に、助産師さんに、ここまでの道を繋いでくれたあらゆるものに、言わなくてはいられない気持ちが溢れ出た。

娘は良く泣いた。高い声だ。電車の中で響いていたら、うるさいと感じるだろう。でも、心地よかった。
娘はしわくちゃだった。宇宙人だ。猿だ。ガッツ石松だ。でも、何でか分からないくらい愛おしかった。
そうか、我が子ってこういうものなんだ。理由は分からない。理屈じゃない。ただただ、存在していることが大事なものなんだ。それだけでいいんだ。

 

 

たくさん写真を撮った。動画を撮った。この瞬間の感動を、いつかの自分と妻とこの子と共有したいと思った。
人にもたくさん見せるかもしれない。というか見せると思う。いや、見せてる。

これからも思い出は増えていく。
それは写真なのか動画なのか、それとも言葉なのかは分からないけれど、その時々に、出来る限りの方法で刻んでいきたい。

伶奈、生まれてきてくれて、ありがとう。

20件のコメント

おめでとうございます!!
ホントにホントにおめでとうございます!!!!!

途中正直過ぎて(笑)
でもきっと立ち会ったお父さんはみなこんなことを考えてたんだろうな。

猿だったとはうちの母もよく言ってます(40年経ったのにいまだに)。

無理ない範囲で、次の投稿も楽しみにしています♪

ありがとうございます!!!
先輩お父さんからは「命の神秘を感じるよ!」みたいなかっこいいアドバイスが多かったので、この正直な気持ちを持っているのかは分からないのですが笑
猿から人になっていく過程も楽しみなんですよね~~~!

れおさん。
はじめまして。
本当におめでとうございます。
誕生を楽しみにしていました。
いやー、、
男性目線のお産レポは、初めてで。
ありがたい以外の言葉が見つからないぐらい、感じたこと、起こったことの共有、ありがとうございます。

産婦人科の看護師として働いているので、うわぁなるほどなぁ!と思うこともたくさんで、勉強になります!!
立ち会いのパパさんで、倒れてしまった方もおられたそうですー。

れおさんが少しずつ少しずつパパになっていく様子の投稿も、
これからますます楽しみです。

まずは3人とも、いや青柳おばあちゃんも!ゆっくり休まれてくださいね。

ほんと産院のスタッフの皆様にはお世話になりっぱなしで!
奥様にすごく丁寧に、綺麗なポジティブな言葉をかけてくださるので嬉しい限りです。
きっと安藤さん達の仕事で救われた人の気持ちがたくさんあると思うので、頭が下がります。

とりあえず、倒れずに済んでよかったです!!笑

こんなにも丁寧に向き合って、丁寧に言葉を綴ってくれて。
この記事はレオさんにとってはもちろんのこと、奥さん娘さんにとっても素敵な宝物になります。
私たちも幸せいっぱいです!
ありがとうございますー!!!
そしておめでとうございます!

まさに今日だから書ける記事!
すばらしい!
そして、夫目線、という、本当に貴重な記事。
前半戦と後半戦、このふたつの記事は、本当に宝物になります!
奥さま、入院中はしっかり身体休めてくださいね。
本当におめでとうございます!

後から振り返った時、「あー書いておけばよかった!」がないようにしたいなと思う限りです!
ただこの記事は自分で読み返すと恥ずかしさがすごそうです(;^ω^)
ありがとうございます!!

改めて、本当におめでとうございます。
そして感動を共有して下さり本当にありがとうー--。

伶奈ちゃん、うまれてきてくれてありがとうー--。
奥様、うんでくれてありがとうー--。

レオさんの記事のおかげでお母さん大学のみんなと誕生の喜びを共有できたことも
とてもうれしいことだなと本当に思いました。

命のすべての誕生が、こんなあたたかな祝福の光に包まれていますように。

おめでとうございます。これからの記事も楽しみです!

誇張なしに全国から祝福していただきまして、ほんとにうれしい限りです!!!
これで後に続く人が増えてくれたらもっと嬉しいですね。
これからもしっかり残していきます(`・ω・´)

伶奈ちゃんご誕生おめでとうございます。
立ち会いレポート、とっても貴重です。今までの記事もこれからの記事も伶旺さんにとってもご家族にとっても宝物になりますね。私達も感動をもらえ、忘れかけた思いを思い出しながら、今に感謝して、家族への接し方にもちょっぴり変化があったりして。

ご家族の姿や伶奈ちゃんの成長と共に綴られる父ゴコロの記事、これからも楽しみにしています。

奥さま、本当にお疲れ様でした。入院中は、体をゆっくり休めて下さいね。

この記事の受け取り方も、各々の状況によって違うのかな…と思うと感慨深いですね…!!
自分や娘が読み返すとき、その時に良い影響を与えてくれたらいいなと、改めて思います!
ありがとうございます!

おめでとうございます!!
長時間の付き添い、おつかれさまでした。
そして奥さま、本当にお疲れ様でした!!

誕生の瞬間をこんなに詳細にレポートしてもらえるなんて
娘さんが将来読めるようになったらとっても嬉しいと思います
(全く関係ないですが誕生日が同じです。光栄です。)

いよいよ始まる本格的な育児記事
これからも楽しみにしてます♪

ありがとうございます!!!
杉本さん誕生日同じなのですね!!遅れてしまいましたが、おめでとうございます!
記事を書くことを踏まえて、毎日の新たな発見をより多く見つけられるようにしたいなと考えております!

れおさん、本当におめでとうございます!
そして、奥様、本当にお疲れ様でした!
お母さん大学サイトで見守り続けてきた私たちも、今回お二人から沢山の感動をいただきました。

「我が子ってこういうものなんだ。理由は分からない。理屈じゃない。ただただ、存在していることが大事なものなんだ。それだけでいいんだ。」
>本当にその通りなんですよね。けれど、子育てをしていると、日々の生活に疲れていたり、幼稚園や学校でのトラブルに心が折れそうになったり…。けれど、この記事を読んで、私も原点に帰ったような気持ちになりました。存在していることが大切。本当にそう。
そう思わせてくれたお二人に、改めて感謝致します。

本当におめでとうございます!そして、奥様も入院中はゆっくりと身体を休めてくださいね。

こういう風に育ってほしいとか、なんかいろいろ思ってたんですけど、生まれたらどうでも良くなってしまいました笑
藤川さんのおっしゃる通り、忙しさとか日常の大変さに疲れることで薄れてくるものだと思うので、定期的に原点回帰したいですね!!
ありがとうございます!!

おめでとうございますー!!!もう最初の文で泣けてしまいましたぁ。涙が溢れるパパとママ。2人にとって一生忘れられない思い出になりますね。

前半戦後半戦の記事、これは一生ものですね!大人になったれなちゃんにもいつか読んでもらいたいですね!

うちは、2人とも緊急帝王切開で立ちあいができなかったので、
旦那様の立場からの立ち会い出産の記事、新鮮です!

奥様、ご出産おめでとうございます!産院でゆっくり休んでくださいね。

立会いが出来ること自体、このご時世だととっても幸運なことだと思うんですよね。
人にも機会にも恵まれていて、なんか幸せで大丈夫かなと思わないでもないのですが笑
家族ゆっくり休みます!ありがとうございます!

私は2人目は、コロナで陣痛室から一人で耐えてました。助産師さんがさすってくれたりして励ましてくださったのは心強かったですが、やはり旦那か母親がよかったなぁと思います。(長男の時は旦那と母が交代で部屋にいてくれました)産んだ後も退院までは、誰も面会に来れず、寂しかったのは忘れられません。これが一人目だったらかなり心細いし不安だと思います。
旦那も我が子が産まれて1週間も会えず、仕方ないとはいえ、どんな思いだったのかなの思います。

なので、一世一代の出産を夫婦で乗り越えられたレオさんと奥様がちょっと羨ましいです♡
すみません、長々と。

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ABOUT US
青柳伶旺
多摩市在住の新米パパです! 普段は都心で営業マンをしています。 社内婚の奥様と、ゆるゆる毎日過ごしています。 趣味はボードゲームとドライブ。料理は夫婦で練習中です。 よろしくお願いします(=´∀`)