お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

母時間と小さな映画館

一人で映画を観に行った。横浜の伊勢佐木町に古くからある、小さな映画館シネマ・ジャック&ベティへ。

この日は『Pacific Mother』という、お産がテーマのドキュメンタリー映画を観るためだった。

だが1時間も早く着いたので、上映中の『フジコ・ヘミング  永遠の音色』の部屋に途中入場。何度か訪れているのに、2つのシアタールームの名前が、JACKとBETTYであることを初めて知った。

フジコ・ヘミングが奏でるピアノの音色と静かな語りと、ヨーロッパの美しい景色。まるで美術館で特別なコンサートを聴いているようだった。

ふと、遠いあの日を思い出した。

ベートーヴェン・オーケストラ・ボンが来日した2005年、お母さん大学で親子向けのコンサートを主催した。クラシック音楽など何もわからない私たちが、横浜と大阪の2会場で公演を実施。それぞれ1000人の親子が、ベートーヴェンの名曲『田園』を楽しんだ。

子どもにおっぱいを飲ませながら、音楽を聴いてもらったあの日。お母さんと子どもたちが教えてくれたのは、愛しい母に抱かれることが、子どもにとってはまさに田園であるということ。

日本では、全国各地にあるミニシアターがどんどん消えている。書店と同じく映画館も、まちの文化資産として、私たちが守るべきものだろう。

今年8月には私たちも、編集部の一室で、宇宙をテーマにした映画『Pale Blue Dot 君が微笑めば、』の上映会を開いた。窓にブラックパネルを貼って遮光、にわかシアタールームだったが、雰囲気は十分に味わえた。

その時私は、ウェルカムドリンクのワインのせいで映画をBGMにウトウト。みんなで感想を語る場面では言葉に詰まったが、美しい宇宙の映像と、お酒と、お母さんの空間が、たまらなく心地よかった。

まちのミニシアターには、シネコンでは上映しないレアな作品が多い。お目当ての映画を観るために足を運ぶのもいいが、ふらっと映画館に行って、その時の気分で作品を選ぶのもいい。

子育て中のお母さんたちは、「もう何年も映画館に行っていません」と言う。子どもを寝かせて「ネットで映画」も悪くないが、たまには子どもを預けて、劇場で一人映画を楽しむ「母時間」の選択があっていい。

おすすめは、小さなシアター。その心地よさは、母ならきっとわかる。もちろん、ウトウトも悪くない。

(藤本裕子)

お母さん業界新聞12月号 百万母力

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