お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

もう一つの故郷

「3・11から15年。今も故郷に帰れない人が4万人いる」——。流れてきたニュースに触れ、なんともいえないやりきれなさを感じていた。

そんな沈んだ気持ちを抱えつつ、「お母さん大学」サイトを開く。お母さんたちの生きた言葉に触れるうち、強張っていた心がゆっくりとほどけていく。

その日、一つの記事が目に留まった。福岡県主催の「地域のリーダーを目指す女性応援研修」を修了したという報告。誰だろうと読み進め、思わず目を見張った。記事の主は、中野美鈴さんだった。 

あの中野さんが——。

現在は働きながら5歳と1歳の姉弟を育てる、立派なお母さん。でも5年前は…。見知らぬ土地での初めての育児。産後の不調も重なり暗闇の中にいた。いわば「孤育て」の淵にいた彼女を支え、笑顔を取り戻させたのは、地域のお母さん大学生たちとのつながりだった。

以来中野さんは、日々の暮らしを言葉にし、発信し続けてきた。彼女の記事は決して長文ではない。けれど、驚くほど率直だ。ありのままの自分を晒すことは、実は勇気が要る。それを自然体で実践できる彼女の強さに、私はいつも励まされてきた。 

そして今。彼女は地域のリーダーとして、自らの経験を語っている。その姿を誇らしく思うと同時に、気づかされることがある。

彼女は「誰かを救おう」として書いてきたわけではない。ただ自分のため、わが子のために、必死に命の軌跡を刻んできた。けれど、その純粋な言葉こそが、孤立する母たちへの静かな、そして確かな支援となっていたのだ。

いつか子どもたちが成長し、母の残した文章を読む日が来るだろう。その時、自分たちがどれほどの愛の中で育ったかを知るはずだ。「きっと、感謝は何倍にもなる」——。記事に添えられた子どもたちの写真を見つめながら、私は確信した。

私の周りにも、震災で故郷を離れ、別の地で子育てをしている人たちがいる。早く故郷に戻れる日が来てほしいと、切に願う。

けれど、中野さんの姿が教えてくれた。今、子育てに奮闘しているその場所も、人と出会い、つながり、心を寄せ合える仲間がいれば、やがて「もう一つの故郷」になっていくのだと。

母たちがペンを持ち、つながり続ける限り、どんな場所でも故郷になる。その百万母力の輝きが、今日も私の心を照らしている。

(藤本裕子)

お母さん業界新聞4月号 百万母力