「母」が付く地名を訪ねる旅。兵庫県宍粟市の「母栖(もす)」から、岡山県美咲町の
「角石祖母(ついしそぼ)」へ。厳しい冬の寒さの中、レンタカーを走らせて辿り着いたのは、地図からも人の記憶からもこぼれ落ちそうな、静寂に包まれた山の中でした。そこには忘れかけていた「命の源流」と、天へと続く物語が眠っていました。
【兵庫県・母栖】
兵庫県宍粟市。平維盛の妻富士局と家来の平満友が逃れ住んだという落人伝説がある。揖保川支流の山間に位置し、山神を祀る「山神社」が鎮座する集落。
【岡山県・角石祖母】
岡山県美咲町。明治の村合併で「角石」と「祖母」の名を合わせて誕生した全国的に珍しい「祖母」の字を持つ地名。一帯には棚田の風景が広がっている。
峻烈なる母の懐道なき先の「母栖(もす)」
姫路で車を借り、最初に向かったのは「母栖」。山の形を模した「母栖谷川」の石碑が静かに迎えてくれましたが、その奥にある「山神社」への道は、まさに命がけの登山でした。
雪に覆われた倒木をいくつも越え、道なき急斜面を泥まみれになって登ること20分。スマホの電波も届かない孤独な山中に、その社はありました。
そこには「母栖」の文字すらありません。けれど、安易な侵入を拒むその厳しさこそが、命を育む「母の懐」の神聖さそのもの。母が栖(す)む場所とは、これほど気高く峻烈なものかと、凍える空気の中で背筋が伸びる思いでした。
標識だけが知っていた「祖母(そぼ)」の道標
県境を越え、岡山県美咲町の「角石祖母」へ。人影もなく風の音だけが響くその地で、唯一この場所が「祖母」であることを証明してくれたのは、凍結の恐れを示す黄色い看板でした。
この写真を撮ることができなければ、何のためにそこに行ったのかわかりません!「祖母」の文字を見つけてこんなにうれしかったことはありません。
棚田で見かけた老夫婦の案山子、夕陽を待つ冬の田の静謐な姿。そこには時代を越えて人々の暮らしや成長を見守り続ける、慈愛の風景が広がっていました。
祈りの産湯と慈しみの「おっぱい神社」
旅は「誕生」の物語へと続きます。法然上人の生誕地「誕生寺」には、子の知恵を願った母・秦氏の一心な祈りと、水を湛える「産湯の井戸」がありました。
さらに総社市にある「軽部神社」へ。境内に垂乳根の桜と呼ばれる枝垂れ桜があったことから「乳神様」として信仰を集めています。
安産や子の成長を願う無数の「おっぱい絵馬」には「乳がよく出ますように」の文字が。切実な愛が溢れる光景に、胸が熱くなります。
月と木星が大接近天文台で宇宙を感じる
湯郷温泉の夜、車を走らせ、標高185メートルの「美咲町立さつき天文台」へ。
見上げた夜空には満月近い大きな月が、木星と寄り添うように並んでいました。この日は、月と木星が視界の中で大接近する特別なランデブー。月明かりが大地を照らし、4兆億個の星々が息づく宇宙の深淵へと誘います。
50㎝反射望遠鏡のレンズ越しに出会ったのは、宝石のような星たちの素顔。西の空に沈みゆく土星の輪、天空に広がるアンドロメダ銀河。春の先駆けとして姿を見せたソンブレロ銀河の神秘的な光。冬を象徴する星雲ネビュラや星の最期の姿であるレムナントが、命のサイクルを静かに物語っていました。
入館料200円で味わう、時空を超えた1時間の心の旅でした。
星は人になり、人は星になる
「星は死んで人になり、人は死んで星になる」。星空案内人の内田重美さんの言葉が、旅のすべてを一本の線で繋いでくれました。
私たちは皆、星のかけら。母の体を通ってこの世に現れ、祖母から受け継いだ命を繋ぎ、最後はまた空へ還る。母栖山、角石祖母の棚田、星空…すべては繋がっている。その壮大な輪廻の中に、私たちは生きています。
(レポート・青柳真美)
お母さん業界新聞3月号
































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