岐阜県中津川市の最北端に位置する「加子母」。2005年、岐阜県中津川市に編入されるまでは、恵那郡加子母村だった。この山里を訪れたのは、2018年。「母たちが旅する日本〜母地名Map」が立ち上がるずっと前になる。
御神木(ごしんぼく)の里で出会った、シシ神と郷土の味
東濃ひのきの産地
加子母は、総面積の約94%が山林という中山間地域。北は下呂市、東は長野県と接する加子母川が地域を貫流する自然豊かな山里だ。
東濃ひのきの主産地で、伊勢神宮の式年遷宮で使われる御用材は、加子母裏木曽国有林から伐り出されており、日本の文化を支える「御神木の里」としても知られている。
村には、「かしも明治座」という木造の歴史ある芝居小屋が現存し、今も地元の地歌舞伎公演が行われている。
母なる山々に抱かれて
「加子」とは「山林労働者、木を切る人」を意味する「木こり」に由来するが、「かし」は傾(かし)ぐという言葉からきており、山麓の斜面や傾いた山稜からの語源という。
「母」の字は単なる音当てではなく、木材という命を育む森(=母なる森)への敬意や、林業に携わる人々を慈しむ想いが込められたのではと想像される。
ランプの宿で過ごす
旅の宿に選んだのは渡合温泉旅館・ランプの宿。その名の通り、宿には電気が通っておらず、自家発電とランプの明かりで一夜を過ごした。
まさに、何もない贅沢。ケータイもパソコンもできないので、薪で沸かした鉱泉に浸かって暖をとり、とにかく眠った。

シシ神様との出会い
翌朝、宿の辺りを散歩していた私の目の前に現れたのは、なんと全長1・5mはあろう、ニホンカモシカであった。その距離は、わずか3メートルほど!一瞬恐怖におののいたが、しっかりと写真には収めた。それはまるで、宮崎駿のアニメ『もののけ姫』に出てくるシシ神のようだった。
車で下山する際、山道で再び遭遇してまた興奮。神々しい山の神に何かのお告げをいただいたような気がしたことを、つい昨日のことのように思い出す。

郷土めし「朴葉寿司」
さらに、加子母のグルメといえば、朴葉寿司。加子母を含む東濃地方の代表的な郷土料理。生まれて初めて食べて、そのあまりの美味しさに感動し、翌日も再び買いに行って食べたのだった。
今回、挽家寿司工房さんに連絡し、代表の田口美紗子さんにお話を聞くことができた。
林業や農業で山や畑に出る人々が持ち運びしやすく日持ちするお弁当として広まった朴葉寿司。朴の葉の上に酢飯、その上に甘酢でしめた鮭やシメジ、フキやマイタケ、紅ショウガなどをのっけていて、素朴な味が特徴だ。葉の殺菌力、酢飯の抗菌力で、食材が傷むのを防いでいる。地元では今も女たちが家々の味を守り、つくり続けている。まさに、母の知恵、母の味だ。
工房では今日も70代を超えるお母さんたちが元気に働いていて、「かしも産直市」や「道の駅かしも」に卸しているという。朴葉寿司づくりは朴の葉をとりに行くことに始まり、具材一つひとつを煮しめるなど手間暇のかかる大変な仕事。「美味しいと言ってくれる人がいるからやっていける。でもこれからは郷土の味を守るため、次代への継承も考えていかなければ」と田口さん。
* * *
横浜に届いた、どこかあったかくて懐かしい朴葉寿司をいただきながら、加子母での出来事や田口さんの言葉に思いを馳せる。
森が育むたくさんの命、そして文化を育む地元のお母さんたち。「加子母」というまち全体が「母」の役割を果たしているような気がした。
(レポート・青柳真美)
お母さん業界新聞2026年1月号
































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