40歳の時、息子が生まれた。大学で教鞭をとる仕事に少し疲れていた私は、1年の育児休業を迷わず取った。
育児書を読み、小児科医だった母の話を聞き、初めての育児に挑んだ。けれども母に「母乳は何時間おきに与えなさい」と言われても、赤ん坊は目を覚ますたびにお乳を欲しがって泣く。親の思い通りにはならない。
そのうち、まあいいかと思えるようになった。生きものが思い通りにならないのは当たり前だ。そう思うと肩の力が抜け、子育てが急に楽しくなった。
忘れられないのは、離乳食を始めた頃だ。せっかく作ったおかゆを、息子は右へ左へとうれしそうに放り投げる。食べ物とおもちゃの区別がつかないのだから、叱っても仕方がない。楽しそうに投げる姿を見ていたら、私まで笑ってしまった。
それからは部屋いっぱいにビニールシートを敷いて、「今日はどんな風に飛ばすだろう」と楽しむことにした。掃除が大変だった記憶はない。声を立てて笑う息子の顔を見るのが、とても愉快だった。
息子はすっかり大人になった。子育ては子どもの未来のためにするものだと思っていたが、振り返れば、親に残るのは、あの頃の何でもない毎日の思い出ばかり。床に散ったおかゆも笑い声も、もう戻らない。けれども子育ての喜びとは、未来ではなく「今ここ」にあったのだと、今になって思う。
特定非営利活動法人 空
(障害者福祉作業所 風のバードヘルパーステーションコスモス)
理事長 糸井ゆき子
お母さん業界新聞8月号 母たちへの一文

































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