「もっと楽をすればいいのに…」。自身に向けたその声を、もう何度、無視してきたことか。
気づけばほぼ100%の確率で「楽ではないほう」の道を選んでしまう私。決して、苦行を愛するストイックな人間に憧れているわけでも、自分を追い込みたいわけでもない。ただ、心がどうしてもそっちをやりたがってしまうのだ。時には後悔することもある。それなのに性懲りもなくまた「茨の道」へと進むのだから、我ながらあきれてしまう。
大ヒット韓流ドラマ『愛の不時着』の冒頭、ヒロインのユン・セリは、パラグライダーの事故で北朝鮮に不時着する。必死に逃げる彼女の前に現れたのは、運命の「右と左の分かれ道」だ。一方は故郷へ帰還できる安全な道、もう一方は絶対に行ってはいけない、しかし壮大なドラマの舞台となる道。彼女がどちらを選んだかは言わずもがな。あの瞬間、世界を熱狂させた美しいラブストーリーの幕が上がったのだ。
ドラマの見過ぎだろうか。どんな仕事も、いつの間にか無意識に「ドラマ」に仕立てようとしてしまう私。
30年以上重ねてきた仕事はどれも、今思い返しても涙があふれ、同時に吹き出してしまうほど面白いシナリオばかりだ。ドラマには、観客の胸を締め付ける「谷」が必要不可欠だ。そして、その谷は深ければ深いほど、乗り越えた先のラストシーンは輝きを増す。
もしかすると、お母さん業界新聞社のクライアント様は、「最近やけに仕事がハードなのは、編集長が谷を深くしているせいか!」とギョッとされているかもしれない。だが、どうかご心配なく。私たちが求める「楽な仕事」とは、退屈で平坦な道を歩くことではない。誰かが心から喜び、自分自身も魂を震わせることができる。それこそが、本当の意味での「楽しい(楽な)仕事」なのだから。
私たちは今、最高のドラマをつくるためにシナリオを紡いでいる最中だ。最後に必ず、素晴らしいエピローグが待っている。
ただ、一つ課題がある。ドラマには胸がキュンとする「恋愛シーン」が必要だが、私にはそこが描けない。できればヒョンビンクラスの相手役(キャスティング)が欲しいところだが…。
ユン・セリは言う。「たとえ時間をあの時に巻き戻しても、私はまたあなたに会うために、あの風に吹かれて、あの場所に不時着する」と。
何度思い返しても胸が震える。そんな風に「あの嵐の日々をもう一度繰り返したい」と、胸を張って誇れる仕事を、私は今日も夢見ている。
(藤本裕子)
お母さん業界新聞8月号 百万母力


































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