お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

「久留米手をつなぐ育成会」を訪ねて

久留米市役所の向かい側の小道を入っていくと「日々+cafe」があります。ナチュラルなインテリア、テーブルが8席とカウンター。見通しのよい店内の奥にオープンキッチンがある明るい雰囲気のお店です。
取材依頼した時に、「お昼も食べられるよ」と聞いていたので、それもお楽しみの一つに、仕込み中の時間帯に伺いました。奥からお料理のいい匂いが漂い、店員さん同士のお仕事トークが聞こえてきます。

お母さん大学福岡支局は、2023年度休眠預金等活用事業「困難を抱える家庭を取り残さない仕組みづくり」に採択され、6団体の一つとして事業に取り組んでいます。事業3年目を迎え、本事業や各団体の活動・思いを伝える白書を作成することになりました。その一環として、日頃の活動で受け止めてきた子どもや保護者の声を伺うため、お母さん記者の山崎&内山チームは「久留米手をつなぐ育成会」の代表 藤野薫さんに会いに行きました。

久留米市手をつなぐ育成会は、障害のある人とその家族が地域で安心して暮らせる社会を目指して活動する特定非営利活動法人です。近年は、福祉制度だけでは補えない地域のつながりづくりを重視し、2年前から交流拠点「日々+cafe」を運営。障害のある人もない人も自然に集える居場所づくりを進め、「ともに地域で暮らせる社会」の実現に取り組んでいます。

70年前に、東京のお母さん3人が始めた活動は全国へと広がり、久留米では50年前に、久留米養護学校(現・特別支援学校)に事務局を置いて設立されました。その後、福祉センターに卒業した後通える「共同作業所あすなろ」を開園し、線香の箱詰め作業などの活動をスタートしたとのことでした。藤野さんは十代目の代表です。私で何代目かな、と指折り数えられる姿をみると、活動の歴史を感じます。

仕事の休憩中に、会員であり、スタッフでもある上村さんに同席して頂きました。
お子さんが乳児の時に障害を持っていることがわかり、「この子には夢も希望もないと思っていた」と振り返られます。「かわいいですね」と人にかけられる言葉すら、素直に受け取れない気持ちになることも。そんな日々を送り、生後10か月くらいになると医師から幼児教育研究所(乳幼児の発達に関する相談・療育・訓練を行っている場所)の紹介がありました。行ってみると、手をつなぐ育成会の集まりと居合わせます。わずらわしいのかもしれない、と想像していた同じ立場の人たちとの交流。実際、自分の目で見て「想像していた世界と違った」と感じた上村さん。参加の回数を重ねるうち「だんだんと人とのつながりが大事だと、沁みてきた」と当時の心境の変化を語られます。

赤ちゃんから大人まで、親子で育ちあう、いろんな活動がある久留米手をつなぐ育成会。
趣味でつながるサークルには「楽しい!」「育成会があってよかった」という子どもの声がたくさん届きます。ボーリング、カラオケなどのレジャー。新しいところではオセロサークル。グループLINEで誘い合って公園に行く「公園に行こう」など、集う人によって盛り上がるものも様々。
親子だけで挑戦しづらい外食や映画など初めての体験をする機会も大事にされています。 毎週水曜日に開催される「すいようカフェ」では、仕事帰りの会員さんが30~40人集まるそうです。
本人たちがやってみたいことは労力もお金もかからないから楽に始められる、と楽しそうに
話す藤野さん。聞いているこちらもワクワクした気持ちになりました。

一段落した時、注文したランチプレートが運ばれてきました。ここは地域活動支援センターとして利用者さん達が料理をしたり、配膳をしたりしています。栄養バランスが良さそうな、お財布にもやさしい価格帯のランチ。やさしい味付けで美味しい!!お昼の時間帯は満席状態というのも分かります。

さて、会につながると、どんどん肩の荷か下りて、仲間の輪が広がっていきます。
すると、「子どものために」と思って参加した活動だったのが、自分のためにもなっていたことに気づく、と語る上村さん。
「集団が大きくなると、みんながみんな好意的というわけではないかもしれない、心が傷ついてしまうこともあるかもしれません。でも学校やクラスでひとり話せるお母さんがいるだけで、気持ちがとっても楽になりました」と藤野さんも振り返られます。
一生涯の付き合いになる仲間も生まれるこの輪を、早く知ってつながってもらえたら、という願いで乳児の親子の場づくりにも力を入れています。
しかし、制度化が進み、相談はすぐにプロにできる、SNSには気持ちをつぶやく場もある、という状況では親同士がつながる必要性を感じにくい、という課題が生まれていることを近年は感じているとのことです。

取材では、お子さんの成長とともに、ご自身が運営する立場になってから、お母さんたちの悩みにどう寄り添ってきたのかというお話も伺いました。同じ保護者だからこそ分かる気持ちに寄り添いながら、「みんなでこの子を育てていこう」という強く温かい思いが、活動の根底にあることを感じます。それは、障害がある、ないに関わりません。
制度がまだ十分ではなかった頃は、子どもの同級生に「うちに遊びにおいで」と声を掛けたり、下校中のトラブルでは近所へ謝って回ったり…。そうした日々の積み重ねが、地域とのつながりをつくってきたのだそうです。

今では放課後等デイサービスなどの制度が整い、親子が安心して過ごせる環境も増えました。それは当事者や家族が願い続けて実現してきた、大切な社会の変化です。
一方で、人と人とのつながりの中だから育まれるものも、確かにあるのだと感じました。
「彼女は、もしもう一人子どもを授かるなら、ダウン症の子がいいなって言うのよ」。
上村さんが仕事に戻られた後、藤野さんが口にされた言葉です。
「順調な子育てでしたとは決して言えないし、今でも悩みはつきませんが、『障害のある子の子育ても、ひと味違ってなかなかいいものですよ』と自信を持って言う事はできます。皆さんにおすすめしたいくらいですよ~」と藤野さんは語られます。

「悩んでいる時に、人と人がつながることができる、そんな地域の場所をつくっていきたいなあ」。
その言葉には、長い年月をかけて親子が仲間と育ち合ってきた思いが、込められているように感じました。
「地域でともに暮らす」とは、どういうことなのだろう。
改めて考えたとき、私の頭に浮かんだのは、「日々にちょっと+を。」というこのお店のコンセプトでした。
ちょっと寄ってみる。ちょっと話してみる。
私も、私なりの「プラス」を一つ始めてみようかな。
そんな気持ちになりながら、日々+cafeをあとにしました。