【北海道・母恋】
北海道室蘭市。アイヌ語で「ホッキ貝が多くある場所」を意味する「ポク・オ・イ」に「母恋」の字が当てられた。駅で販売される「母の日の記念きっぷ」が有名で、今も全国から母を想う温かい気持ちが集まる地。
「母の日」に訪ねた静かな木造の駅舎
旅の目的地の一つは、小さな木造駅舎の「母恋駅」だ。ウェブ情報では「一年で一番混むのが母の日」とあり、名物「母恋めし」は予約必須の貴重なもの。偶然にも「母の日」当日に重なったため、前日の夕方ギリギリに電話を入れ、なんとかお弁当を確保した。
しかし、辿り着いた駅は小さく静かだった。一日に数本しか電車が通らない駅。「日本一賑わう日」のはずが、いたのは私たちだけ。切符を求める人も今はわずかで、一時間に一本のバス停にも誰もいなかった。
室蘭といえば製鉄所や造船所が多く、「鉄のまち」として発展してきた地域。最盛期と比べると活気が失われたとはいえ、湾に立ち並ぶ工場群は圧巻。工場夜景が楽しめると、観光客や工場見学愛好家も訪れるという。駅にいた地元の当番の女性は、温かい笑顔で町のことを教えてくれた。
「アイヌ語の『ポク・オ・イ(ホッキ貝のたくさんある場所)』という本来の由来のほかにね、昔この町で子どもが迷子になって、お母さんを恋しがって探したから『母恋』という字が当てられたといういわれもあるのよ」。
母恋駅で買い求めた「ありがとう お母さん」の記念切符には、町の記憶を愛おしむようなやさしい眼差しが残されていた。
おにぎりに詰まった、ご夫婦の愛
車で5分、目指すは室蘭の誇る名勝「地球岬」だ。展望台から見渡す太平洋は息を呑むほど青く、水平線が丸みを帯て広がっていた。ここはドライブの人々で心地よい賑わいを見せている。岬の観光案内所のスタッフも親切で、出会った誰もがこの町を愛しているのが伝わった。
きらめく海を眺めながら、いよいよ「母恋めし」を開く。大きなホッキ貝の殻の中にすっぽり収まった炊き込みご飯のおにぎり。おかずは、燻製たまごとスモークチーズに漬物だ。
事前情報によると、30年も毎朝4時に起きておにぎりを作り続けているという関根さんご夫婦。あいにくお会いすることはできなかったが、おにぎりを一口頬張った瞬間、お2人の思いや人柄が口いっぱいに広がった。この町を訪れる人や子どもたちのために作られたお弁当のやさしさは、今もこの一箱の中に生きている。
「母を恋う町」は、大きな母性に包まれていた
帰り道、レンタカーの窓から「母恋北町」「母恋南町」の信号機の看板が次々と視界を過ぎていく。鉄の冷たさと、人の温もり。そして日常の暮らしの営み。
静まりかえった駅舎やバス停を見つめたときは少し切ない気持ちにもなった。けれど、地球岬の語源がアイヌ語で「親である断崖」という意味であることを思い出し、ハッとする。人が少なくなっても、時代の波が変わっても、この「母を恋う町」は、今も「親」という名の断崖に守られ、丸い地球の海にやさしく包まれているのだ。
どこへ行っても、「母」という文字の周りにはあたたかいストーリーがある。お土産の記念切符をそっとカバンに仕舞いながら、私は北の大地の心地よい風の中で、大切な家族の顔を思い浮かべていた。(青柳真美)
お母さん業界新聞6月号 母たちが旅する日本

































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