母たちの愛唄

小さなあなたをこの胸に抱いた時から
ひとりじゃなくなった。
小さな覚悟と重圧を伴って
”ひとりじゃない”私たちになった。
”ひとりじゃない”を何億年、繰り返して
今、この世に生まれ落ちた、いのち。
母の健やかな我欲はあっさりと身をひそめ
寝る暇もなく育てに励む。
慈しみと哀しみを脈々と鼓動させながら
―望むように生きて―と。

壁の時計を見て慌てて出かけて行く背中。
テーブルに残されたパンくずにさえ
子の気配を覚えて自分の愛の深さに驚く。
ちちははを思い出し、自分もそうして
育てられてきたことに気づき、こうべを垂れる。
子の痛みを代わってやれない悲しみを抱え
それを取り除こうとするがゆえの摩擦さえ
愛だったのだと知る。

そうしていつしか子が望むように生きることが
母の生きる意味となり地球は回る。
地球が回るたびに子に託した祈りは膨張する。
―望むように生きて―
それを生きられなかった茶色い戦火の時代をも
命をつなぎ身を粉にして指先を紅く染めながら
そのような時代がくることをひたすら願い。
何億もの慈しみと何億もの哀しみの果てに
さあ今、準備はできた。すべての子どもたちに
―望むように生きて―
深い源でつながっているすべての母たちの
それが願い。

(益子由実/1711母ゴコロ)