たまらない

師走。育てることに身も心もぱんぱんの
日々の中でふと、立ち止まってみる。
この一年の始まりの頃、三年前、十年前…
日常の物差しを、ぐっと広げて見てみれば
一世を風靡していた私たちの歌が懐かしい
メロディーになっていた。
ブラウン管の向こうのつややかな頬は
たおやかな皺が増え、少し青ざめた。
生きていた今この瞬間は、飛行機雲のように
記憶のかなたに逃げていくもののようだ。
あれれ。もしかしたら、この日々も?
食べさせること、元気で送り出すこと、
笑顔で迎えること、安らかに寝かせることに
必死で、ただただ…必死な、めまぐるしく
ずっと続いていくように思えるこの日々も?
顔からはみ出しちゃいそうな笑い声も
じだんだ踏んで、ぼたぼた落とす涙も
怒ったときのひくひくした鼻の動きや
ポケットの中で、ぎゅっとつないだ小さくて
ぷっくりした右手と左手。
そういった温度のある感覚も、いつかは…
手を替え品を替え、やってくる心配事。
一つほっとすれば、違う一つがちゃんと
用意されていて、目と心が離れないように
神様は創られたのだろう。それでも、
思い出になっていく瞬間は、必ず来る。
思い出に変えながら、新しいはぐくみを
営んでいくことを止めることはできない。
子どもたちの、この瞬間が、本当に今しか
ないことが、たまらないんだ。
たまらない―に続く一行を遂に立ち上げる
ことができないまま。

(益子由実/お母さん新聞1711/母ゴコロ)