お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

りんごのきのしたで「つながりなおす場所」を描く ―Mother’s Tree Japan 絵本プロジェクト―

日本で暮らす外国人ママの産前産後をサポートしている「NPO法人Mother’s Tree Japan」が、オリジナル絵本『りんごのきのしたで』を制作中と聞き、作者である事務局長の坪野谷知美さんと、絵と構成を手がけた岩田晶子さんに、制作に込めた思いを聞いた。(取材・池田彩)

NPO法人Mother’s Tree Japan
事務局長 坪野谷知美さん

アトリエあとり主宰
作家、イラストレーター
岩田晶子さん

Mother’s Tree Japanという名前

「もっと大きなものにつながることが大事なんじゃないか」。そう語るのは、Mother’s Tree Japan事務局長の坪野谷知美さん。

15年前、一人のお母さんとの出会いが、その原点にある。その女性は乳児院で働く保育士。夫は子育てに積極的で、実母も近くに住み、経済的にも安定していた。傍から見れば恵まれているように映ったが、彼女は「子育てが辛くて」と涙を流した。坪野谷さんは、その姿に違和感を覚えた。

「足りないのは支援じゃなく、もっと根源的なものではないか」。当時、保育士や産後ケアに携わっていた知美さんの周囲では、「自己実現」という言葉が流行し、もっと輝こうと懸命にがんばるお母さんたちの姿があった。しかし、幸せそうには見えなかったという。

その後、自身も乳がんを経験。命と向き合う時間を通して、「人を育てること」「命を育むこと」の偉大さを、身体で感じるようになった。「支援ではなくお母さんを包む、もっと大きなお母さんのようなもの。大きな木のような場所が必要なのではないか」。

外国人のお母さんたちを支える活動を始めた6年前、「Mother’s Tree Japan」という名前に辿り着いた。

日本では「支援がなければ子育てはできない」と思われがちだ。もちろん、手は必要だが、支援=あたたかい手とは限らない。人は「支援される存在だ」と思った瞬間、腰が引けてしまう。

坪野谷さんは子育てをスキーにたとえる。腰が引けると流されて転ぶが、骨盤を立てて乗ればコントロールでき、楽しめるようになる。子育ても同じではないか。大切なのは、「自分の足で立てた」と感じられる環境を整えることだ。

Mother’s Tree Japanも子育て支援団体ではあるが、「マザーツリーのおかげで」と言われるうちはまだまだだと自らを省みる。目指すのは支援ではなく、生命エネルギーが満たされる環境づくりだ。

日本がスタンダードではな

世界人口80億人のうち、日本人は約1億人。日本の子育てが「当たり前」ではない。たとえばバングラデシュでは、40人、50人といった大人数で暮らし、子育てを1人で背負わない。従姉妹や叔母が身近にいるため、「ママ友をつくらなくても困らない」と笑う。

日本に住むベトナム人のお母さん同士の会話も印象的だった。離乳食をレシピ通りにつくらなきゃと追い詰められていた一人に、もう一人が言った。「私たちベトナム人よ。私は芋しか食べさせてない」。その言葉に、「そうだった」と涙を流したという。バナナや芋でも、子どもは育つ。

「人生はもっと楽しく美しいのに、どうして日本人はそんなに難しい顔をしているの?」。ムスリムのお父さんの問いかけが胸に残る。正解を探し続け、間違えないように生きる日本人。何が幸せかわからなくなっている人も多いのではないか。ムスリム社会では、子どもはみんなの宝物。日本の「支援センター」や「赤ちゃん訪問」は、かえって不思議に映るという。

絵本『りんごのきのしたで』が生まれるまで

坪野谷さんの思いを形にしたのが、絵描きの岩田晶子さん。高1・中1・小2の3人のお母さんだ。長く子育てに専念し、自分のやりたいことは自然と後回しにしてきた。下の子が小2になり、Instagramに絵を載せ始めたところ、声がかかった。「お母さんをテーマに描けるなんて、夢のようでした」。

孤独だった自分を思い出し、泣きながら描いた日もあったという。絵本では、「つながること」と同時に「一人でいる時間」も大切にした。ぼーっとする、風を感じる、静かに過ごす…。大切なのは、自分と仲良くすること。自分の足で立つ感覚を取り戻すことだ。

お母さんだからできる
映画にもなった創作童話『おかあさんの木』には、7人の息子を戦争で失った母の後悔が描かれている。「嫌だって言えばよかった。声を上げられたのは母親だったのに」。Mother’s Tree Japanという言葉が重なる今、その意味は大きい。

利害関係のないお母さんだからこそ、国や文化を超えてつながれる。「眠れないね」「辛いね」。そんな言葉を交わせる関係が、命を大切にする社会をつくる。

難しいことはいらない。「三歳児健診、一緒に行かない?」「準備、一緒にやろう」。声をかけるだけでいい。友だちがいれば、「外国人は出て行け」なんて言葉は生まれない。一人ひとりの命が大切にされる社会へ。お母さんだからできることが、たくさんある。

未来に、何をつなぐ?
絵本『りんごのきのしたで』は、これまでのお母さんたちが紡いできた、知恵や想いとつながることの大切さも教えてくれる。今、「地球」という大きな舟に乗り合わせた私たち。母として、何を守り、何を次の世代へ手渡していくのだろう。

3月29日開催の「世界赤ちゃん祭り」では、絵本の簡易版配布、原画上映、朗読、そして「21世紀の実家」をテーマにしたトークショーが行われる。未来について、共に語り合いませんか。

「世界赤ちゃん祭り」
3月29日(日)11:00〜16:00
豊島区役所としまセンタースクエア

【主催】NPO法人Mother’s Tree Japan
東京都豊島区千早4-38-5ホリモトビル101 070-8597-2340
https://mothers-tree-japan.org

『りんごのきのしたで』 絵・さく:いわたあきこ

 初めての子育てに戸惑い、赤ちゃんと二人きりで不安を抱えるお母さん。甘いりんごの香りに導かれ、大きな木の下へ。やがてまた一人、国を越えた母たちが知恵を持ち寄り集ってくる。日本語だけじゃなく多言語での展開も予定。

お母さん業界新聞2月号 MJレポート