知的障害のある人たちが「自分のことは自分で決めたい」と声を上げ始めて今年で30年。本人たちが主役となり、ともに生きる社会について考える「第30回 ピープルファースト大会 in 神奈川」が、11月29日(土)・30日(日)の2日間、横浜みなとみらいで開かれる。
ピープルファーストとは、知的障害を持つ当事者が、自分たちの問題を自分たちで発言し、自己の権利を擁護するための団体および運動のこと。1973年にアメリカのオレゴン州で、知的障害のある人々が「私たちは障害者である前に人間だ!」と発言したことから、「People First(まず人間として)」という名前が生まれた。

「第22回 ピープルファースト大会in横浜」で、「入所施設をなくせ」
「わたしたちの権利をみとめろ」など、大会スローガンを読み上げるなかまたち。
障害者である前にひとりの人間でありたい
ピープルファースト大会の実施に先立ち、実行委員長の八原浩美さんに話を聞くことができた。八原さん自身、知的障害を持ちながら、日々の生活と仕事、大会実行に向けての準備を両立されている。取材時、ピープルファースト横浜の支援者・石井直人さんに同席いただいた。けれどもしっかりと、自身の言葉で思いを語られる八原さんの姿が印象的だった。 (取材/青柳真美)

第30回 ピープルファースト大会 in 神奈川
実行委員長・八原浩美さん
最初に八原さん自身のことを教えてください。
小学生までは普通級で過ごした私。勉強についていけなくなったことから、中学1年で、横浜市港南区にある養護学校(当時)へ転校しました。学校を出てからは親元を離れ、現在はグループホームに住み、社会福祉法人同愛会の非常勤職員として、作業所や食堂で働いています。
実行委員長になったとき、どんな気持ちでしたか?
ピープルファーストとは、知的障害者の団体および活動のことです。私がピープルファーストの「なかま」(一緒に活動する知的障害者をこう呼ぶ)になったのは、現在お世話になっている同愛会に入ってからなので、9年前です。
ピープルファーストジャパンの会長から、「9年ぶりに神奈川で大会をやりたいけど、どうかな?」と打診があったのは一昨年のことです。
会長が私に宛てて書かれた丁寧なお手紙を受け取ってしまったからにはNOはなく、覚悟しました。石井さんが全面的にサポートしてくださるのも心強く、決断理由の一つです。
準備をする中で、大変なことや楽しいことがあれば教えてください。
大変なのは金銭的なこと。大会の運営は協賛金の中でやるのですが、1000人が集まれる場所があまりなく、今回はホテルで実施することになりました。会場費がとても高いので、やりくりが大変です。
みんなの意見をまとめるのも簡単ではありません。1993年にカナダであった「ピープルファースト世界大会」に日本から当事者と支援者が多数参加し、翌年から全国大会が始まりました。以来、毎年開催地を変えて全国大会が開かれています。
開催地が中心となって全国実行委員会を開き、オンライン会議などで話し合いながら、大会をつくり上げていきます。神奈川のなかまとは普段から交流があるのでスムーズですが、全国の実行委員会との話し合いはなかなか大変です。
熱心に議論するあまり、時には意見が分かれ、炎上してしまうこともありますが、なんとなく雰囲気でうまくやっています(彼女のキャラクターですよと、石井さん)。
反対に、楽しいと思えるのは、なかまとやりとりするうちに味方がどんどん増えていくことでしょうか。気持ちが一つになっていく高揚感があるし、石井さんたちとの作戦会議も楽しいですね。
やまゆり園の事件をテーマにした理由は何ですか?
今年は記念すべき第30回大会です。「やまゆり園事件から条例に至るまで~津久井やまゆり園事件から学び、すべてのいのちが輝く社会を目指して~」事件を風化させないことも大きなテーマです。
実は、事件が起きたのが2016年の7月。その直後の9月に、「第22回 ピープルファーストin横浜」が開かれました。
当時、大会の実行委員長をされていた小西勉さんは、事件前から準備していたことを白紙に戻し、「このテーマこそ、地元である私たちが、取り組まなければならないものだ」と提案。全国からの猛反対にあうも、圧倒的な思いで押し通し、実現させた経緯があります。
「障害者である前にひとりの人間である」というピープルファーストの一環した思いを、社会に提案し続けなければなりません。
また、私たちのなかまの中には、事件当時やまゆり園に入所し身体拘束にあっていて、その後、同愛会の施設に転所し一緒に働いている人もいます。
事件の裏側にあるそうした多くの問題も、当事者と関係者だけではなく、みんなで考えていけたらと思います。
大会に来る人たちへメッセージをお願いします。
なかまたちといつも話しているのは、「全国から一人でも多くの人に来てほしい。来てよかったと思って帰ってもらいたい」ということです。
座右の銘「明るく楽しく、元気よく朗らかに」をモットーに、なかまと叱咤激励し合って大会をつくり、当日を迎えられたら最高です。
私も、この日はちょっぴりおしゃれをして、皆さんをお迎えしたいと思います。どうぞお気軽に足を運んでください。
最後に、八原さんの夢を教えてください。
今回の大会や日頃の活動を通して、障害者だけでなく、たくさんの人に「ピープルファースト」を知ってもらえたらいいですね。
知名度と好感度を上げて、ピープルファーストを全国47都道府県すべてに誕生させること。一緒に活動しているなかまたちが各地に分散し、起こしていけたらいいなと考えています。
個人的には、宝塚ファンの私です。ステージも見に行きたいし、海外旅行にも行ってみたい。でも、今一番の願いは、グループホームを出て、一人暮らしをすることです。夢で終わらないように、がんばります!
相模原障害者施設殺傷事件と
神奈川県当事者目線の障害福祉推進条例制定2016年7月26日、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員であった植松聖(当時26歳)が入所者を襲い、19人が命を奪われ、27人が重軽傷を負う事件が起きました。戦後最悪といわれる大量殺人事件です。
犯行の背景には「障害者は不幸をつくる存在」という加害者の差別的な思想がありました。これは社会に根強く残る偏見や、障害者と共に生きることへの理解不足が生んだものでもあります。
事件をきっかけに、障害のある人の尊厳や命の重さを改めて考える動きが広がりました。誰もが安心して地域で暮らせる社会をつくることが、私たち一人ひとりに問われています。
この事件を受け、神奈川県では黒岩祐治知事のもと「当事者目線の障害福祉推進条例~ともに生きる社会を目指して~」が制定されました。障害の有無にかかわらず共に暮らす社会づくりを進めるためです。
また、障害の当事者たちが自らの思いを語る「ピープルファースト」の活動も広がり、今年11月には横浜で全国大会が開かれ、黒岩知事も参加します。事件を風化させず、「ともに生きる社会」を次の世代へつなげることが、私たち一人ひとりに求められています。

第30回 ピープルファースト大会 in 神奈川
お申し込みはこちらから https://www.pf-j.jp/2025yokohama/
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