ハープ奏者として活躍する古佐古基史さんが、孫娘の子守りを通して得た気づき。一見、仕事の時間を奪うだけに思えた育児は、実は高度な切替力や注意力の分割を養う「能力開発」の場でした。音楽にも通じる全人間的な成長の物語です。
profile●1971年愛媛県松山市生まれ。東京大学医学部保健学科卒業。渡米後、独学でハープを習得し国際コンクール準優勝。クラシックからジャズ、即興まで独自の音楽世界を展開し、世界各地で演奏活動を行う。音楽と心身の健康研究にも取り組む。カリフォルニアの自宅では、ファームでの生活に必要な作業を自分で手がけ、ヤギや豚、鶏など家畜の飼育と有機野菜の栽培にも取り組みながら、音楽家としての充実した社会活動と自然の中での持続可能で自給自足性の高いライフスタイルの融合を試みている。
赤ちゃんの世話で能力開発
昨年11月から週の前半は、早朝から夕方まで孫娘の子守りをしています。
目に入れても痛くないほどかわいいい孫娘ですが、赤ちゃんの世話はやはり大変です。しかも彼女は、かわいさの代償として、私の時間を容赦なく奪い去る「小悪魔」でもあります。つまり週の前半は、仕事が全く捗らないのです。
これはプロの音楽家としては一見ロスのようですが、能力開発の訓練ととらえれば、自分磨きのこの上ないチャンスとなります。
かつては、子育てのために職場を離れることを、能力開発を停滞させる「回り道」や「ブランク」のようにとらえる風潮がありました。
確かに専門職という狭い視野ではそうかもしれません。しかし実際には、子育てという正解のないプロジェクトに長期間関わることで、予期せぬ全人間的な成長が起こります。その意味では、職場を離れることも長い目で見ればプラスになるのです。
では実際、具体的にどんな能力が鍛えられるのか、説明していきます。私自身、特に以下のような能力が磨かれています。

(1)瞬時の切り替え能力
やりかけの仕事を潔く中断し、緊急性の高い事態に即座に向き合う能力。
(2)高度な作業管理能力
途中で中断した作業に忘れずに立ち返り、きっちりと終わらせる作業管理能力。
赤ちゃんの世話では、容赦なく緊急性の高い案件が次々に立ち上がるため、今やっていることを否応なく中断せざるを得ません。一段落ついた頃にはさっきのことを忘れて、別の作業を始めてしまう…。
そんな繰り返しで頭の中がグチャグチャにならないためには、この管理能力の開発が必須となります。
(3)執着を手放す能力
今やるべきことの優先順位を考慮して、自分のやり方やこだわりを手放す能力。
赤ちゃんから要求が発せられると、それを無視することは不可能です。その容赦ないかわいさが「赤ちゃんファースト」の気持ちを自然と抱かせ、自分のやりたいことへの執着から離れることを容易にしてくれます。
(4)数手先を読む計画性
常に数手先を読んで、準備しておく計画性。
赤ちゃん相手だと、思い通りに物事が進むと期待するのは無謀です。
さっき交換したばかりのオムツにウンコする、おしゃぶりをどこかに放り投げておいて、おしゃぶりを欲しがって泣き叫ぶなんてことも。
あらゆるシナリオを想定し、使わないかもしれないものなども含めてすぐ手の届く場所に配置しておく、邪魔になりそうなものは片付けておくなど「先読み力」が鍛えられます。
(5)身体の器用さと筋持久力
片手で赤ちゃんを抱えて、もう一方の手で作業をする器用さと、片腕で赤ちゃんを支え続ける筋持久力。
赤ちゃんを抱えたままいろんなことをやらなくては、子守りは務まりません。
左腕が疲れたら右腕に持ち替え、今度は左手で作業する。繰り返すうちに、だんだんと無駄な力が抜けて、赤ちゃんを楽に抱えられるようになり、「片手作業」も上手になります。
(6)注意力の分割能力
常に意識の一部を赤ちゃんに向け続ける内的能力。
何をしていても、常に意識の一部を赤ちゃんに向けておく注意力の分割が必須です。
実は、意識的に注意を分割できる能力は、緻密な楽器演奏において長年の訓練を経てはじめて得られる非常に高度な能力です。子育ては、この能力が自然と鍛えられる貴重な機会なのです。
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最初にお母さん業界新聞への掲載をお願いすると、「ママ友ではなく、ジジ友ですがいいですか?」と笑って返してくださった古佐古さん。
その気さくなお人柄のまま、日々の出来事を丁寧に発信されています。何気ない日常の言葉の中に、尽きることのない生命力を感じます。
古佐古さんのホームページには、こう書かれています。「様々な人生経験を皆さんと共有するための媒体として、音楽は特別な力を持った表現の手段です」。
音楽は感情を表すものだと思っていましたが、古佐古さんにとって音楽は、人生を分かち合うための「媒体」というところにハッとします。
ジャズハープという音楽を即興で奏で、今の自分の人生すべてを伝える。その瞬間をそのまま差し出す音色は美しく、そして自由。
ジャズのうねりの中に、確かな生命の強さを感じたら、日々の子育てがどれほど美しいか、知ることができるのではないでしょうか。(植地宏美)
コンサート情報
演奏動画
お母さん業界新聞3月号
































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