お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

働くお母さんのバイブル『育児は仕事の役に立つ』の著者、浜屋祐子さんと対談しました。

 

30年余、お母さんはスゴイ!と言い続け、お母さんの笑顔をテーマにさまざまな子育て支援事業に取り組んできました。中でも、旭化成ホームズの「へーベルメゾン母力」は2012年に共同開発した子育て特化型住宅で、現在もコミュニティサポートを担当しています。本日同席する川波謙三さんは、同社東京中央支店支店長。日頃から多くの部下を抱え、育児と仕事の両立問題を実感。経営企画部の堀敬明さんを加え、「女性がいきいきと働き続けられる環境」について、お母さん大学と一緒に研究しています。その中で出会ったのが、光文社新書『育児は仕事の役に立つ』の一冊です。著者の浜屋祐子さんをゲストに、本書を紹介しながら、育児と仕事を両立するためのヒントを探っていきます。

お母さん業界新聞4月号特集より

藤本『育児は仕事の役に立つ』は衝撃的でした。これまで必死に新聞や講演などで伝えてきたことが、とてもスマートに、アカデミックに、ロジカルに書かれていたからです。「チーム育児」の提案も素晴らしく、お母さんたちにとってこの本はエールでもあり、バイブルでもあると思えました。
浜屋ありがとうございます。私も『お母さん業界新聞』を拝読しましたが、お母さんの気持ちがいっぱい詰まっていて、夢中で読んでしまいました。皆さん素顔をさらけ出し、自分の言葉で書いているのが印象的ですね。
藤本新聞と連動している お母さん大学サイトは安心して裸になれる場所。お母さんたちが心でつながっています。さて本題ですが、「育児と仕事のポジティブな関係」を研究されたきっかけは何ですか。
浜屋仕事と育児は足を引っ張り合うものという捉え方が主流だった10年前、生かし合う、役に立つという発信は数えるほど。欧米ではすでに研究、発信している人がいましたが日本では手付かず状態。掘っていくと、救われる人が多いのではと思いました。
藤本育児なら保育学や家政学、仕事なら経営学や経済学、ではなく「間」に注目されたのが素晴らしい!
浜屋育児と仕事の間の研究を受け入れてくれたのが、東京大学大学院・学際情報学府(当時)の中原淳教授です。学問分野間のボーダー(境界)領域の研究にも積極的な先生。育児当事者でいらしたのも大きかったと思いますが、「探し当てた」気がします。
藤本あるお母さんに聞いた、小学4年生の息子さんの話。「社会科では経済の発展が未来をつくるというけど、理科では自然環境を壊しているのは経済の発展という。どっちが本当?」と聞かれてうまく答えられなかったと。音楽や文学もそうですが、間というものがすごく大事な気がします。
浜屋大切である一方で、「神聖な育児をけしからん」あるいは「役立つなんて甘い」と叱られたことも。それでもあえてリスクを取って行き来させることで、両方の世界でがんばる人たちが交われる。間の研究、重なり合ってやるエリアが重要です。
藤本読むほどに「お母さん」の深さが見えてきて。それはきっと浜屋さんがお母さんだからに違いないとうれしくて。ご自身の両立の日々のこと、教えてください。
浜屋最初はかっこつけて一人でテキパキ。家事も仕事もササッとこなし、効率を上げればいけるだろう。私ががんばればなんとかなるだろうと思っていましたが、ちっともうまくいきませんでした。
藤本理想と現実の違いに、心も時間も失ってしまうお母さんも少なくありません。
浜屋わが家も最初は壁にぶつかってばかりでしたが、夫とはじわじわと「チーム」になっていった感じです。映画のタイトルみたいですが「そして父になる、なんだよ」と、夫は言っていました。大学院に行くことも、家族の協力なしでは無理でしたね。

藤本世のお父さんたちにもシェアしたい言葉ですね。
浜屋妊娠期間分、夫はマイナス1からのスタートです。もどかしく、ぶつかりながらも、ちょっとずつ折り合いをつけ、抱っこ中におむつの横漏れに泣かされるなどいくつもの修羅場を乗り越え、子どもと共に夫婦で成長していきました。「私たち」とボキャブラリーも変わり、数年かけてうまく回るようになりました。
藤本チーム育児は夫婦だけでするものではないとありました。「チーム浜屋」の実践について教えてください。
浜屋実は密度の濃いママ友づきあいは今でもあまり得意なほうではないんです。それでも私なりに少し勇気を出して輪を広げてきました。小学校では学校のことを教えてもらったり子どもを家に預かってもらったり…家の外にもチームを広げていきました。
藤本祖父母や保育園、地域の人間関係を大切に、と私もずっと発信してきました。
浜屋育児を起点に広がる人間関係はたくさんありますね。中でもPTAは、ものすごく勉強になりました。
藤本私は、PTA役員になったほうがいいよと言うんです。どうせなるなら会長に。変な人がトップだったら大変よと。
浜屋確かにそうですね! 私は本部役員でなく平役員で地域の会合に出る係でした。そこで出会うのは町内会のおじいちゃんや野球チームの監督など年齢も職業も異なる方々です。多様でこだわりポイントが異なる人たちと、お祭りをどうしようと進めていくには、価値観と優先順位のすり合わせが必要です。そこにはビジネススキルにつながる学びがありました。仕事でも部署や部門が違うと、お互い「譲れない」のと同じ。いや、場合によっては地域のほうがややこしい場合もあるかもしれないですね。

保育園の帰り道は幸せな時間

藤本『育児は仕事の役に立つ』は大学院で書かれた論文がもとになっていますね。ご自身の体験としてこの本に入れたかったこと、大変だったことがあれば教えてください。
浜屋とりわけ論文の執筆中は時間にも心にも余裕がなくなりがちでした。経験からお伝えしたかったのは、何を優先するかということです。私は「保育園の帰り道」だけは仕事モードをチェンジして子どもとゆったり過ごすと決めていました。園用のおむつにスタンプはいいけれど、気持ちを効率化してはダメだなと。子どもとのコミュニケーション時間をつくるためなら、「今晩もお惣菜」は良しとして、保育園から家まで1時間かかったとしても、とことんつきあいました。一日で一番幸せな時間でした。
藤本お母さん業界新聞でも「幼稚園までの道のり」を特集したことがあります。時間に追われる日々の中、限られた母と子の時間をどう過ごすかは、とても大事なことです。
浜屋自分の中で「ここだけは譲れない」ワンポイントをつくれたらいいですね。
藤本働く女性が増えている背景について教えてください。
浜屋MUST、WANT、CANが絡み合っていると考えます。MUSTは世帯所得の伸び悩みから、経済的に「働かねば」という要因。WANTは仕事で自分の力を発揮したい、「働きたい」という要因。CANは企業の制度や社会の後押しもあって「働けるようになってきた」という要因です。

藤本旭化成ホームズの川波さん、この点はどうですか。
川波弊社のお客様は、「住宅」という一生に一度の大きな買い物をするわけです。女性社員も営業や設計として関わりますが、仕事のやりがいや喜びの一方で、責任も大きく、スキルアップも必要。出産・育児をきっかけに辞めてしまう人もいます。会社の制度を変えていく必要もありますが、WANTの女性たちを、どう両立させていくかが課題です。ご著書にあった、人に頼っていいんだよという「ヘルプシーキングの力」に共感しました。
浜屋会社のお荷物ではなく、力を発揮していくための環境や方法を一緒に考えてくれる上司がいることが伝わると、心強いですよね。女性社員へのサポートとともに、管理者教育や意識改革が課題になってくると思います。
藤本堀さんは経営企画部ですが、子育て中のお父さんでもあります。両立を実践する当事者としていかがですか。

 

小5と3歳の子どもがいて毎朝保育園に送っています。妻は教員というハードワーク。ストレスも多い中、家事、育児の両立と配分という課題に直面しています。夫婦の協力が大切であり、また地域にチームをつくることで気持ちを緩和したり負担を軽減したりできるのか。妻が大変なときはどうすればいいのでしょう。

浜屋お忙しい日々が目に浮かぶようです。まずは堀家として譲れない軸を明らかにした上で、家事育児の中で、変える/減らす/家庭外の人の手を借りるなどの可能性を探っていかれるとよいのではないでしょうか。また、人手としてだけでなく、視野を広げたり安らぎを得たりするためにも、家庭の外のコミュニティとのつながりを持つことは、忙しいご夫婦にこそおすすめしたいですね。
良いヒントをいただき、イメージができました。

藤本家庭の外にチームを広げていけたらいいですね。
浜屋その通りですね。論文がもととなっているため著書でのチーム育児の定義(左ページ)は取っ付きにくいかもしれません。講座では、「夫婦、おばあちゃん、ご近所さん、先生、シッターさんに加えて、お持ち帰りのできる惣菜やルンバのようなモノ・コトなど家事を支える諸々を、自分たちの援軍にしていきましょう」と話します。網のようにサポーターをつくっていくのです。
藤本ネットで何でも解決できる時代です。でも何かあったとき、誰がわが子を守ってくれるでしょう。浜屋さんも東日本大震災のときのことを書かれていましたね。
浜屋その日は、自宅で病児保育のシッターさんに息子をお願いしていました。夫が保育園から娘を引き取って帰宅するまで見てくださって…。支えてくれる皆さんに感謝するとともに、さらにチームを広げていく必要を痛感した出来事でした。

ひとりで抱え込まず、チームで乗り越えよう

藤本先日はバリキャリの女性と「子育て期はご近所さん3人にパジャマを預けていた」という話で盛り上がりました。地域には助け合えるママ友もいますが、助けてあげたいと思ってくれている人もいます。
浜屋素敵ですね! 私もそろそろ助ける側に回れそうかな。
藤本「育休中にパジャマを預けられる人をつくろう」作戦。日頃からコミュニケーションをとり、共感できる関わりをつくることが大事ですね。
浜屋いきなりパジャマの預け合いはハードルが高くても、まずはお散歩・挨拶作戦もおすすめです。先日も「子どもとセットで近所を散歩し、感じのいい人と思ってもらうことからスタートした」とご自身の工夫を披露してくれたお母さんがいらっしゃいました。藤本お母さん業界新聞には、手づくりの『わたし版』という新聞があり、出会いのツールになっています。アナログの小さな新聞が、孤育てをなくし、地域をつなげています。
浜屋ひと声かけて交流するきっかけとなりそうですね。
藤本子育てをプロジェクトにたとえて、「リーダーシップ行動」というと納得です。
浜屋子育ては、子どもを守り育てることを目的に、人を巻き込んでやっていくこと。他者と連携し、情報共有や調整をしながら切り盛りしていく行為は、リーダーシップを育む経験です。チーム育児を通して、職場でも役立つ能力が磨かれている。たとえば保育園の保護者会も、働く母親、先生、上司との関係を調整しながらやっていくリーダーシップ行動です。
藤本私たちお母さん大学の孤育てをなくす活動も同じ。お母さんたちは地域でリーダーシップを学んでいます。
浜屋育休中、授乳に寝かしつけ、おむつ替えといったお世話に、同時並行で家事をこなしながら赤ちゃんを見守ります。予測不能な事態には、ベターな判断をして先に進めていくのはマネージャーに通じる仕事。メンバー交代の難しさ、親族ならではの気遣いの必要、地域の人々の多様性…と、難しい要素も多い中、簡単には投げ出せない環境下で日々鍛えられているのがお母さんです。
藤本まさに、お母さんは、マネージャーですね。
浜屋但し、母親一人で抱え込む「ワンオペ育児」は、残念ながらリーダーシップ行動にはつながりません。家庭内外で積極的に「チーム育児」をすることがリーダーシップ能力の向上につながります。

育休中は楽しく学びながら、地域に種まきを

藤本育休中、こんなに学びの多いお母さんなのに復職後、子どもがいることがハンデとなり、プロジェクトから外されたり閑職に回されたりすることも。育休中、育児中こそ地域とつながって、仕事に役立つ力を身につけましょう。
浜屋そのように捉えられると、子育て期に「思いきり仕事ができないから後ろめたい」「自分のキャリアの中断で、人間的に成長していないんじゃないか」といった思いは消え、前向きになれるのではないでしょうか。
藤本働くお母さんに育休中の過ごし方を聞くと、ほぼ会社との接点はないようで、資格を取ろうと思ったが思うように勉強ができないから諦めたという人もいます。
浜屋まずは赤ちゃんとの生活に慣れるのが大切なので、あれもこれもと焦る必要はありません。但し、育休中はチーム育児のための種まきのチャンスですので、少しずつでも地域やその他の外の世界に踏み出してみることをおすすめします。それが育休中のお母さん自身の、楽しみにも学びにもつながってくるはずです。
川波女性活躍推進といわれながら、優秀な女性が辞めてしまうのは弊社だけの問題ではありません。真面目な頑張り屋さんほど仕事と育児どちらもバランスよくできないと凹んでしまう。量の分担やシェアはできても精神的なストレスやノルマ、責任感などをどう分担、サポートできるのか、考察を聞かせてください。
浜屋精神面での後押しの一例として、メンター制度は女性に有効だと思います。離れた部署の先輩に話を聞いてもらったり、社外の人と話したり。同業種、異業種交流やマッチングの機会をつくるのも一つ。他者と対話し視野を広げる中で、肩の力を抜けたらいいですね。
企業の経営陣として、これからどのように職場のしくみを変えていくか、アドバイスをいただけたらと思います。
浜屋これには覚悟も必要です。福利マターではなく、経営イシューだと社内全体で共有すること。「やってあげる」感覚は危険です。彼女のためではなく、会社のため、自分のために「やる」のです。社員のパフォーマンスが上がらなければ、会社の存続にかかわります。家を買うにもほとんどの場合は女性が決めます。本気でやらないといけない理由を理解し、実行することではないでしょうか。

いつでもやり直しがきく社会を

藤本未来の働き方について教えてください。
浜屋実現を願っているのは、その人なりのギアチェンジがいつでも可能な働き方です。お母さん業界新聞の特集「母であること、働くこと」を読みましたが、専業主婦も正社員も、皆さんそれぞれが今の持ち場で奮闘されている。但し、子どもの年齢や自分のモチベーションなどに応じて変化を望んでいる方も多い。育てる、働く、学び直す、そのグラデーションを時期によって柔軟に選択できる社会をつくりたいですね。それを可能とするためにも、育児に関しては一人で抱え込まないこと。「家族」を開き、気軽に助けてよと声を出し合えること。チーム育児で支え合いながら、個々人がしっくりくる働き方をその時々で選んでいけるようになることを望んでいます。
藤本お母さんたちと活動して思うのは「誰かのために」の大切さ。それが自分の幸せにもつながっています。Z世代は意味を問う。仕事も活動も、社会に役立つことを選ぶそうです。子育ては人材育成であり、究極のSDGsです。お母さん、お父さんを笑顔にすることが先決ですね。最後になりますが、浜屋さんの夢を聞かせてください。
浜屋先ほどの未来の働き方にも通じますが、現在取り組んでいる社会人向けの経営教育事業を通して、育児などで一度仕事を離れた方も含めて働きたい、学びたいという挑戦がいつでもできる社会をつくっていきたいですね。プライベートでは、ささやかですが、いっぱいしゃべっていっぱい笑い合える家族でいたい。子どもを急かさず、「保育園の帰り道」のようなあたたかい時間の延長、幸せだったあの夕方のようなひとときを1日1回でも持てたらいいなと思います。

 

チーム育児とは

「育児」=「子どものお世話」ではありません。共働き育児の場合、食事、おむつ替え、保育園の送迎といった、直接子どもに接して行うお世話などの「育児の実行」と、保育園の先生とコミュニケーションをとったり、園行事に参加したり、トラブル相談をしたりといった、育児に関わる周囲との調整やコミュニケーションなどの「体制づくり」の両方を含めて、「育児」ととらえています。「育児の実行」は、「子どものお世話」と「子どもとの遊び」、そして「家事」の3項目で構成され、一方の「育児の体制づくり」も3項目。家事・育児について役割分担を考え、実行するという「協働の計画と実践」、子どもの体調やスケジュールを共有したり、育児方針の話し合いをしたりする「育児情報の共有」、そして3つ目の「家庭外との連携」とは、保育園ほか育児をサポートするサービス提供者との関係構築、コミュニケーション、情報共有、また保護者間の関係構築などもこれに含まれます。(出典『育児は仕事の役に立つ』)

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藤本 裕子
株式会社お母さん業界新聞社 代表 お母さん大学 学長 お母さん業界新聞 編集長 娘3人、孫4人 大好きなもの:TUBE・温泉・ビール