「声のない声を大事にできる場をつくりたい」と話すのは、久留米市で活動するNPO法人舞台アート工房・劇列車の代表・釜堀茂さんと、事務局長の弥永尚子さん。同法人は2003年に発足し、人形劇の観劇活動を中心に取り組みを続けてきたが、2020年からは、人形劇を観た後、参加者同士が語り合う場「ドラマダイアログ」を開催する交流型へと大きく舵を切った。人形劇を観るだけではなく、対話の場がなぜ必要なのか。その背景や2人の思いを聞いた。 (MJ記者・池田彩)
表現活動は不要不急?
長年、一般的な人形劇団として活動を続けていた釜堀さんたちだが、次第に違和感を抱くようになった。「1年かけて作品をつくっても、『面白かった』『よかった』だけで終わってしまう。伝えたい思いがたくさんあるのに、作品が消費されていく感覚があった」。
転機となったのはコロナ禍の2020年。学校が一斉休校になり、演劇や人形劇などの表現活動は「不要不急」として真っ先に切り捨てられた。「私たちは不要不急なのか…と、問い直さざるを得ませんでした」。
DVや虐待など辛い体験をした人たちの心の回復に、表現活動が大きな役割を果たすことを2人は現場で見てきた。当事者たちは、一見問題が解決したように見えても、その後ずっと心の中で葛藤が続く。そんな時、自分では言葉にできない思いや感情を、人形劇が代わりに表現してくれることがある。だからこそ、「楽しい」「面白い」も大切なことだが、それだけではないという思いだった。
参加者に語りかける弥永さん
今でも忘れられない声
思い立ったら即行動。人形劇を観るだけではなく、終わった後、参加者同士が語り合うおしゃべり会「ドラマダイアログ」をやってみることにした。すると、それまで聞こえなかった声が聞こえてきた。
ある小学校で、外国にルーツを持つ子どもたちとその家族を対象に開催した時のことだ。
終わり際、一人のお母さんが興奮気味に話しかけてきた。「わたし日本にきて10年。パペットシアターはじめて見た。とてもおもしろかった」。片言の日本語で繰り返すお母さんの姿が今でも忘れられない。
おしゃべり会の後、子どもたちが人形の周りに集まり、夢中になって触れたり遊んだりしていた。人形を介して初めてのお友だちとも、ごく自然に交流するわが子の姿を、お母さんは本当にうれしそうに見つめていた。必死に思いを伝えようとするそのお母さんの表情や熱量から、日本で子育てをする中で抱えてきた孤立感や不安、人とのつながりを求める気持ちが伝わってきた。
学校の先生からは、普段電話をかけてもなかなかつながらない保護者が集ってくれた上に、公演後に感謝の電話が何件も寄せられた、と報告があった。
「ただ観劇するだけだった頃は、お礼の電話がかかってくることなんてありませんでした」。対話をすることに意味があった。これはやらなきゃいけないことだと、改めて感じた。
子どもの言葉に勇気づけられる
2024年からは、学校などクローズな場だけでなく、誰でも参加できるオープンな取り組みにも力を入れ始めた。その一つが、人形劇『一郎くんのリスタート』で、一郎くんが人生の入り口を探すストーリーだ。
上演後の対話の場では、「比べるってどういうこと?」をテーマに、大人も子どもも一緒に語り合った。
大人が話す様子をずっと黙って聞いていた小学1年生の女の子が、最後にそっと手を挙げた。「ずっと大人になりたくなかった。でも、大人になってもいいかなと思った」。
その場にいた大人たちは皆、少女の言葉に大きくうなずき、勇気づけられていくのが伝わってきたと言う。
「そこにいた一人ひとりが、何かを受け取った瞬間でした。日常のおしゃべりではなかなか生まれない対話だったと思います」と弥永さんは話す。
自分の言葉で語ること
劇列車が一番大切にしていることは、「自分の言葉で話すこと」だという。
上手に話せなくてもいい。まとまっていなくてもいい。人形劇という共通体験を通じて、普段は言葉にならない思いが少しずつ表に現れてくる。その声を大切にしてほしい。それぞれが自分自身の思いに気づき、その声を受け止めてもらえる場があること。それが、自分の人生を大切にするきっかけになる。そのお手伝いをしたいのだ。
オンラインでつながることが当たり前になった今、わざわざ同じ場所に集い、語り合うことは、一見非効率で面倒なことかもしれない。しかし、その過程こそが人と人をつなぎ、自身を知る機会になる。
劇列車が目指しているのは、誰かが主役の舞台ではない。子どもも大人も、すべての人が自分の「人生の主人公」として生きられる社会の実現だ。
人形劇の幕が下りた後、本当の物語が始まる。その願いは、今日も誰かの心の中で静かに広がり続けている。
大切にしてほしいことを話す釜堀さん
お母さん業界新聞 7月号 MJレポート


































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