幼稚園では週1回、絵本のお部屋にある絵本を何冊か借りることができた。
借りた日と題名を冊子に書く。
要領のいい親子は毎回違うものをたくさん借りてちゃんと返して、の繰り返し。
なのにうちの息子はこの絵本しか借りようとしなかった。
その時は何を借りようか、考えるのがじゃまくさいから、と思っていたし
たった一冊、それも同じのばかりで母としてちょっと恥ずかしかった。
「そんなに好きなら買ってあげようか?」と聞いても
「いらん」だったし。
卒園して小学校に行ったある日
「お母さん、あの絵本ほしい」と言い出した。
「やっぱり欲しかったんか」と素直に言ってきた息子が可愛くて
すぐ買ってあげた。
でもその後、いろいろ考えてみると
息子はこの絵本を他の誰にも渡したくなかったのかもしれない。
自分が借り続けることである意味守ったのかもしれない。
息子なりの愛情表現だったのかもしれない。
あまり自分の気持ちをうまく言わない子だったし
ずっと聞きそびれたままなので
今でも私の想像だけれど。

「これはのみのぴこ」谷川俊太郎・作 和田誠・絵
サンリード1979年